Introduction

 ――禁忌の者達。

 

彼らがいつから、歴史の闇に潜んでいたのかを知る者は居ない。

しかし古今東西の伝承の中に、その姿は散見される。

 

例えば、生き血を啜る闇の生き物、――吸血鬼(ヴァンパイア)。

例えば、嵐を呼ぶ水辺の魔物、――人魚(マーフォーク)。

例えば、満月の夜に異形と化す獣、――人狼(ウェアウルフ)。

例えば、屍肉や人肉を喰らう鬼、――屍食鬼(グール)。

例えば、人の精や夢を吸い取る悪魔、――夢魔(インキュバス)

 

ある者は、突然変異が齎した全く新しい生物、新人類だと言い、

ある者は、元は人間となんら変わりない、第六能力に目覚めた亜人だと言い、

ある者は、これこそが神の産みたもうた奇跡の力であると言い、

ある者は、悪魔と取引をした人間の成れの果てだと言い、

 

様々な憶測と推論が飛び交うも、彼らがいつから人の世の影に存在していたのかを知る者は居ない。

人と掛け離れた、禍々しい本能を抱いた異種なる者達を、人々は好奇心を以って、同情を持って、畏敬を持って、恐れと嫌悪を以って、その真実を暴こうと探し回った。

 

解明しなければならない。

共存しなければならない。

崇拝しなければならない。

根絶しなければならない。

 

いつしか人々の間にまことしやかに囁かれるようになった噂話。

人に酷似した、人ならざる生き物達の存在を、その輪郭を探ろうとするように、彼らは名前を付けてこう呼んだ。

 

禁忌の者達、――ヴェティター(Vetiter)。

 

そう、彼らは貴方のすぐ傍に存在する。

街角に、路地裏に、学校に職場に、――もしかするとあなたの隣に。

 

“見つかってはならない”

 

彼らの暗黙の了解と共に、その存在は人のすぐ傍で息衝いている。

己の種族の為に、尊厳の為に、命の為に、それとも大切な誰かの為に、

時に人間を犠牲にしながら。

 

さあ、良く、目を凝らして。

真実を確かめるには、その闇を見つめなくてはならないのだから。

 

でなければ、彼らの次の獲物は――

 

――貴方かもしれない。

 

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